この身体を流れる血液の半分は
夢の中から受け継いだものだ
父が鬼籍に入ったのは
まだ私の記憶がモノクロだった頃
箸で掴んだ首の骨が
やけに白かったことだけを覚えている
理知的で聡明な母は
わたしの父をわたしのために再構築した。
つくりあげられたのは母の夫ではなく
また祖母の息子でもなかったが
まぎれもなく私の父だった。
絵本の読み聞かせをする代わりに
サンタクロースを語るように父の生き様を語り
虫歯菌の工事の様子がごとく父の仕事を語り
そうしてよくある小さな不幸のように
父の死を語った
本を読まない
漫画もサザエさんしか読んだことのない
テレビも見ない
嘘が何より嫌いだった 母の
それは一世一代の壮大なフィクション。
十六年の歳月の後
暴かれた秘密は やはり
嘘を親の敵のように憎んでいた 母の手の上にあった。
まことの父はそこにある。
しかし夢と何が違おう。
冷たい石の下に白い砂となって父の抜け殻は眠っている。
「声が聞こえる?」
十年ぶりの墓参りは そんな母の問いかけだった。
幽霊も魂も何一つ信じない母は横顔だけで静かに笑った。
「聞こえないでしょう。死んだ人は喋らないのよ」
そうして口を無くした死人の代わりに
夢物語を母は語ったのだ
現は夢。
夜の夢こそ真。
なれば。
瞼の裏に浮かぶ父は。
偽り事でもあたたかい腕をしている。
私の心は、夢の父によってつくられた。
今や全てを知っている。
嘘も。虚飾も。その痛みも。
けれどそれが何ほどのものか。
この身体を流れる血液の半分は
夢の中から受け継いだものだ
ねえ
おかあさん
おとうさんは
すてきなひとだったね。
夢の中から受け継いだものだ
父が鬼籍に入ったのは
まだ私の記憶がモノクロだった頃
箸で掴んだ首の骨が
やけに白かったことだけを覚えている
理知的で聡明な母は
わたしの父をわたしのために再構築した。
つくりあげられたのは母の夫ではなく
また祖母の息子でもなかったが
まぎれもなく私の父だった。
絵本の読み聞かせをする代わりに
サンタクロースを語るように父の生き様を語り
虫歯菌の工事の様子がごとく父の仕事を語り
そうしてよくある小さな不幸のように
父の死を語った
本を読まない
漫画もサザエさんしか読んだことのない
テレビも見ない
嘘が何より嫌いだった 母の
それは一世一代の壮大なフィクション。
十六年の歳月の後
暴かれた秘密は やはり
嘘を親の敵のように憎んでいた 母の手の上にあった。
まことの父はそこにある。
しかし夢と何が違おう。
冷たい石の下に白い砂となって父の抜け殻は眠っている。
「声が聞こえる?」
十年ぶりの墓参りは そんな母の問いかけだった。
幽霊も魂も何一つ信じない母は横顔だけで静かに笑った。
「聞こえないでしょう。死んだ人は喋らないのよ」
そうして口を無くした死人の代わりに
夢物語を母は語ったのだ
現は夢。
夜の夢こそ真。
なれば。
瞼の裏に浮かぶ父は。
偽り事でもあたたかい腕をしている。
私の心は、夢の父によってつくられた。
今や全てを知っている。
嘘も。虚飾も。その痛みも。
けれどそれが何ほどのものか。
この身体を流れる血液の半分は
夢の中から受け継いだものだ
ねえ
おかあさん
おとうさんは
すてきなひとだったね。
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